最終更新日:2023/04/24

脳心連携チーム(ブレインハートチーム)とは

 脳卒中は、脳を栄養する血管の異常が原因で、突然に血管が破れたり詰まったりする病気の総称です。原因となるのは、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの生活習慣病が多く、これらの危険因子は、脳卒中だけでなく、心疾患の発生にも共通するものです。
 従って、脳卒中は、しばしば心疾患を合併しており、また、心疾患が脳卒中の原因となっていることも稀ではなく、脳卒中の治療と同時に心疾患の治療を行う必要があります。
 脳卒中患者さんで心疾患の治療が遅れることのないよう、またその逆に心疾患の患者さんで脳卒中の治療が遅れることのないよう、私たちは、脳神経外科と循環器内科で「脳心連携チーム」を立ち上げ、両診療科の連携を強める取り組みを行っています。
 このような脳神経外科と循環器内科の診療連携は、近年重視されるようになり、ブレインハートチームという名称が定着してきました。

脳卒中の診療の質の向上を目指して

 当院は、2019年に「一次脳卒中センター」に、2022年には「一次脳卒中センターコア施設」に認定(日本脳卒中学会)されており、血栓溶解療法や血栓回収療法など、高度な脳卒中医療をすみやかに提供できる、地域の基幹病院として県民から期待されています。
私たちの責務は、脳卒中・循環器病に対する高度急性期医療の提供により健康寿命の延伸に貢献することであり、目の前の脳卒中を急性期治療したら終わりではなく、脳卒中・循環器病に対する高度医療を提供する病院として、まだできることがある!と考えます。
急性期医療機関だからこそできる脳卒中・循環器病のトータルマネージメントが目標です。
健康寿命の延伸のための対策ロードマップを見返すと、それぞれのステップについて施策がなされていますが、維持期医療の再発予防に関して言えば、まだできることが残されていると考えます。そのひとつが、再発予防のための高度医療の「前倒し」での提供です。

健康寿命のための対策ロードマップ

脳梗塞は再発しやすい

 脳卒中の3/4を占める脳梗塞は、いちど発症したら、また繰り返しおこす可能性が高い病気です。
再発率は、発症後1年で10%、5年で35%、10年で50%にのぼります。
脳梗塞が再発すると、新たな後遺症が加わることで更に重症化しやすいといわれます。ですから、脳梗塞は発症して急性期治療をしたら終わりではありません。脳梗塞の再発予防のため、原因疾患に対する治療が必要です。
 とくに、心原性脳塞栓症は、心房細動などが脳梗塞の直接的原因にもなっていることがあり、再発予防のために、ただちに治療開始が必要です。

脳梗塞の再発予防の方法には様々なレベルの医療がある 

脳梗塞の再発予防は、発症した瞬間から始める必要があります。また、ひとことに再発予防といっても、その内容には様々なレベルの医療があり、なかには急性期病院での高度医療も含まれます。
生活習慣病に対する予防と治療はベーシックです。そのつぎに、かかりつけ医で行う投薬治療があります。
そして、専門的医療機関で行う、高度な医療もあります。
私たちは、脳梗塞に対する高度医療だけでなく、同時に、再発予防のための高度医療も提供します。
そのために、脳神経外科と循環器内科の連携を強め、「脳心連携チーム」で取り組んでいます。

再発予防にはいろんなレベルの治療
※アブレーションについてはこちら

脳梗塞のなかでも、「心房細動による心原性脳塞栓症」はコワい病気

 脳梗塞には、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症の3つのタイプがありますが、なかでも恐ろしいのは心原性脳塞栓症です。脳梗塞の原因の25〜30%はこの心原性脳塞栓症です。
心原性脳塞栓症は、基礎に心房細動(不整脈の一種)などの心臓の病気が隠れていて、それが原因でおこります。
 心房細動では、心臓の中で血流に乱れが生じて、血液が勝手に固まってしまい、壁にはりついた血栓をつくります。その血栓が、あるとき剥がれおちると、血液の流れにのって、全身に散らばっていきます。それがたまたま脳の血管へと流れていくと、脳の血管に詰まってしまいます。詰まった先には、酸素と栄養を含んだ血液が流れなくなるので、脳細胞が死んでしまい脳梗塞になります。
 心原性脳塞栓症の特徴は、他のタイプの脳梗塞と比較して広範囲で、重症化しやすく、死亡率も高いことです。それは、心臓内にできた血栓はサイズが大きいため、脳の中の太い脳血管に詰まりやすいためです。

心房細動から心原性塞栓症がおこるメカニズム

心房細動から心原性塞栓症がおこるメカニズム

脳梗塞の3つのタイプ
心原性塞栓症で障害される脳の範囲は、ほかのタイプの脳梗塞に比べて広いので重症化する

脳梗塞の種類

循環器内科で行う心房細動に対する高度医療:アブレーション

 心房細動による心原性脳塞栓症の再発を予防するためには、心房細動を止めるのがいちばんですが、それは簡単なことではありませんでした。そこで、従来の治療は、抗凝固薬の内服により、血液をさらさらにして血液が塊をつくりにくくする方法でした。
一方で、近年では、カテーテルという血管の中に送りこむ細く長い管でできた医療器の開発が進んでおり、全身の疾患に対してこのカテーテルを用いた血管内治療の進化がめざましく、様々な治療ができるようになりました。そのひとつが、脳神経外科で脳梗塞に対して行う血栓回収療法です。
循環器内科では、アブレーション治療など心房細動に対する治療ができるようになりました。アブレーション治療 というのは、心臓の拍動のリズムを調律する場所がある左心房の中へカテーテルを送り込み、リズムの狂いの原因となっている場所を熱凝固(アブレーション)することによって、異常なリズムを正常化するという、高度医療です。 カテーテルの先端を異常な部位に押し当てて、電気を流して加熱して、「お灸をすえる」ような感じです


脳心連携チーム(ブレインハートチーム)の役割

 このように、心原性脳塞栓症を発症したら、脳神経外科で脳の血管を治療したら終わりではありません。発症した瞬間から、再発のリスクがありますので、ただちに再発の予防を開始する必要があります。心原性脳塞栓症の再発予防のためには、心房細動の早期発見・早期治療が重要です。そこで、私たちは、脳神経外科と循環器内科が密に連携して、急性期から慢性期に至るまで、脳梗塞の再発予防に努めています。

脳心

 私たちの脳心連携チームの介入により、脳梗塞急性期入院中に心臓の精査を完結でき、発作性心房細動など、見つかりにくい心房細動も見つかるようになりました。
 心房細動が心原性脳塞栓症の原因となっている患者さんでは、アブレーション などの高度医療への架け橋ができました。それ以外にも、循環器内科で行う治療は、単に脳梗塞の再発予防だけでなく、心臓病によるさまざまな障害を治すことも目的にしており、抗凝固薬の適切な調整や、心不全治療など、心臓のトータルマネージメントができます。 


全脳梗塞と診断
例グラフ

まとめ

  • 2020年、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が施行され、社会の脳卒中循環器病に対するニーズはますます高まっています。
  • 当院では、診療の質の向上を目指して、急性期の脳梗塞治療から再発予防まで、すばやく、もれなく、継ぎ目なく、全人的な治療を行うために、脳神経外科と循環器内科による脳心連携チームを立ち上げました。
  • 急性期脳梗塞治療から再発予防のための高度医療まで途切れのない医療を提供できます。
  • 脳卒中と心臓病患者に対する全人的なケアを目的として集学的アプローチを行う医療施設は国内ではまだ少なく、先進的な取り組みです。
  • 脳心連携は、脳卒中の診療の質の向上に貢献しており、今後更に発展させていきたいと思います。
OurMission われわれの手

2023年3月27日 脳神経外科 市川智継