最終更新日:2022/03/15

正常な心臓

正常な心臓

心房の天井にある洞結節から規則的に電気信号が発生して心室に伝わる

心房細動

心房細動

心房が小刻みに震えて心室に不規則に電気信号が伝わる

心房細動の問題

心房細動は、動機などの自覚症状で困るだけでなく、脳梗塞や心不全を引き起こし、生命を脅かす危険性のある不整脈です。腎機能や認知症を悪化させることも分かっています。このため脳卒中・循環器病対策基本法には、心房細動についての知識を普及させる重要性が明記されています。心房細動で大切なのは、発症を予防すること、早期に診断すること、適切に治療を行うこと、の3つです。

問題1 脳梗塞になる理由

心房細動は心房が小刻みに震えて血液が淀んでおり、血栓が形成されやすい状態となっています。血栓が血流に乗って飛んでいくと、全身の臓器の栄養血管を詰まらせてしまいます。脳の血管が詰まると、心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞を発症します。心原性脳塞栓症のダメージは広範囲で、半身麻痺などの機能障害をきたして介護が必要になることが多く、最悪の場合には命を落とすこともあります。

問題1 脳梗塞になる理由

問題2 心不全になる理由

心房細動は、心房の収縮が失われて心室が不規則に収縮している状態であり、つねに心臓に負担がかかっています。これが続くと心臓の機能が破綻し、全身に十分血液を送れない状態である心不全を引き起こします。送れない血液は肺に溜まっていき、酸素を十分取り込めなくなるため、激しい呼吸困難を生じ、我慢して様子をみていると急速に悪化して命に関わることがあります。もともと心臓に病気がある場合に、心房細動を引き金として心不全を発症することが多いですが、心臓に異常がない場合でも、心拍数が多い心房細動が長く続くと心臓の機能が低下して発症することがあります。

問題3 主な自覚症状

脈が乱れて心拍数が速くなるため、動悸や胸の不快感となって現れます。
心臓の機能が低下して全身へ効率よく血液を送れなくなるため、体がだるい、息がきれる、めまい、ふらつきといった症状が出ることもあります。

問題3 主な自覚症状

特徴

心房細動を生じると、心臓の拍動が不規則で乱れた状態になります。加齢により頻度が増加するため、高齢化が進む本邦の患者数は増加しています。自覚症状は、救急車を呼ぶほど強い方から、全く感じない方まで様々です。進行性の病気であり、初期にはときどき短い発作が起こる程度ですが、次第に発作の頻度が増えて止まりにくくなり、最終的に慢性化する性質があります。

原因

加齢が最も大きな原因で、60歳以降で頻度が増加します。もともと心臓に病気がある場合や、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、甲状腺機能異常などの病気がある場合には起こりやすくなります。肥満、多量の飲酒、ストレス、睡眠不足も原因となります。これらの多くは生活習慣の影響を強く受けており、発症を予防するには、減塩、減量、節酒、運動など、健康的な生活を心掛けることが重要です。

診断

心電図で心房細動をつかまえることで診断がつきます。症状がある場合は心電図検査が行われて発見され易いですが、症状がはっきりせず、脳梗塞などの危険な状態となって初めて発見されることも珍しくありません。早期診断のために、健康診断やかかりつけで定期的に検査を受けておく必要があります。発作が短期間で止まる場合には、検査でつかまりにくいため、普段から自分で手首の動脈を触れて脈の乱れがないかチェックする「自己検脈」の習慣をつけておくことが大切です。毎年3月9日はみゃ(3)く(9)の日と定められており、以降の1週間は自己検脈の推奨週間となっています。

治療

血栓を作りにくくする抗凝固療法(A)と、心房細動自体をコントロールする治療(B)の2つが基本となります。心房細動自体のコントロールは、リズムコントロール(B-1)とレートコントロール(B-2)に分けられます。

A 抗凝固療法

心房細動が原因の脳梗塞(心原性脳塞栓症)は重篤であり、その予防は大切です。血液を固まりにくくする抗凝固薬を毎日内服して予防します。これを抗凝固療法と呼び、特に血栓ができやすい「75歳以上、高血圧、糖尿病、心不全、脳梗塞を含む血栓塞栓症の既往」に当てはまる方は必須とされています。

B-1 リズムコントロール

心房細動自体を抑え、正常の拍動を維持する治療をリズムコントロールといいます。リズムコントロールには、抗不整脈薬の内服とカテーテルアブレーションの二つがあります。抗不整脈薬の内服は手軽ですが、心房細動の進行を抑えることはできず、一時的には発作を予防できても、いずれ効果は無くなります。年齢が進むほど副作用が増えるという問題もあります。カテーテルアブレーションは発症早期であれば根治も期待できる非常に有効な治療法のため、近年では第一選択に考えられるようになっています。

B-2 レートコントロール

心房細動を予防して正常の拍動を維持することが理想ですが、心房細動は多くが加齢に伴う心房の老化によって生じるため、難しい方も多いのが現実です。心房細動と一生付き合い、心拍数を薬によって抑えて心不全予防や症状軽減を目指す治療法をレートコントロールといいます。

カテーテルアブレーション

心房細動の原因となっている部分を、カテーテルを用いて心臓の内部から焼き切る治療法です。発作性心房細動では約90%が肺静脈由来の異常な電気興奮によって引き起こされる事が分かっており、肺静脈の出口を囲むようにアブレーションする肺静脈隔離術を行うことで、心房への異常興奮が遮断され、心房細動を抑制できます。

カテーテルアブレーションの効果

自覚症状を軽減させ、生活の質を向上させる効果があります。脳梗塞や心不全を予防し、生命予後を改善させる効果も期待されています。根治性の高い発作性心房細動の内に治療を行うことが理想ですが、持続性となっても2~3年以内の持続期間であれば成績は良好です。それ以上の持続期間でも、若い時から続いている方では有効の場合があります。薬については、アブレーションに成功すればほぼ全てを中止できます。ただし血栓ができやすい方は、抗凝固薬の継続が必要になります。

心房細動になった場合、抗凝固療法やカテーテルアブレーションなどの治療法を考えることは大事ですが、これらを受けていればもう安心という訳ではありません。抗凝固薬には出血が止まらないリスクが、カテーテルアブレーションには再発するリスクがあります。生活習慣病が多い程そのリスクが高まる事が分かっており、生活習慣を見直すことは心房細動の発症予防だけでなく治療の効果を最大限引き出すためにも大切です。