はじめに

15歳から30歳代の思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult,AYA)の患者に発症する「がん」で、 AYA世代に発生するがんは、15歳未満の小児に発生する場合に比較して、一般的に予後不良とされ、 特にわが国では未だAYA世代に発生するがんの現状が正確に把握されていません。

当院におけるAYA世代のがん診療実績について

(当院で初回治療を施行した症例)

診断年 2015年

がんの種別 治療法 予後
(2019年1月1日現在)
子宮頚癌 12人 手術 18人 生存 15人
白血病 4人 化学療法 4人 死亡 1人
脳腫瘍 3人 手術 + 放射線療法 + 化学療法 1人 不明 9人
甲状腺癌 3人 放射線 + 化学療法 1人    
その他のがん 3人 経過観察 1人    

診断年 2016年

がんの種別 治療法 予後
(2019年1月1日現在)
子宮頚癌 8人 手術 11人 生存 11人
白血病 3人 化学療法 5人 死亡 3人
甲状腺癌 2人 手術 + 化学療法 3人 不明
(他院でフォロー)
7人
(7人)
悪性リンパ腫 2人 放射線 + 化学療法 1人    
その他のがん 6人 経過観察 1人    

診断年 2017年

がんの種別 治療法 予後
(2019年1月1日現在)
子宮頚癌 7人 手術 16人 生存 21人
甲状腺癌 3人 化学療法 3人 死亡 1人
乳癌 3人 手術 + 化学療法 4人 不明
(他院でフォロー)
(来院中断)
3人
(2人)
(1人)
その他のがん 13人 手術 + 放射線療法 + 化学療法 1人    
    経過観察 2人    

診断年 2018年

がんの種別 治療法 予後
(2019年1月1日現在)
子宮頚癌 10人 手術 12人 生存 19人
精巣 3人 化学療法 1人 死亡 1人
脳腫瘍 3人 手術 + 化学療法
手術 + 放射線療法 + 化学療法
2人
1人
不明 0人
その他のがん 4人 経過観察 2人    

※がんとは通常、悪性腫瘍を指すが、脳腫瘍については良性・良悪不詳を含む。

患者さんを取り巻く環境

思春期世代では、心身の成熟とともに親からの自立の過程にありますが、 がん治療により、学業や就労が遅れたり、中断するなどの影響を受け、 人生設計の変更を余儀なくされる可能性があります。 若年成人世代では、家庭や社会での活動が中心となりますが、がん治療により、 仕事や子育て等への影響が不可避となります。

こうした問題による不安から、精神的ストレスを抱える患者さんも少なくありません。 また、がん治療は、不妊のリスクを伴うため、 生殖年齢にあるAYA世代のがん患者さんの将来の挙児希望にも配慮が必要です。

さらに、18歳未満発症の方には小児慢性特定疾患、40歳以降では介護保険といった公費負担制度がありますが、 AYA世代の患者さんには、こうした制度がなく、経済的負担も生じます。

当院におけるAYA世代のがん治療の取り組み

乳腺・内分泌外科

(整容性を重視した手術療法)

温存手術を基本術式としており、整容性の高い手術を目指しています。 腫瘍の大きい症例に対しては、術前化学療法や術前内分泌療法を施行し、 腫瘍を小さくしてから温存手術をおこなうことがあります。 症例によっては、乳房に傷の残らない内視鏡手術も選択可能です。

【乳房再建術】

乳房再建手術が必要な場合には、術前より形成外科医と相談し、 (1)人工乳房による再建 (2)広背筋皮弁による再建 (3)血管吻合をともなった腹部遊離皮弁による乳房再建 (4)腹直筋皮弁による乳房再建のなかから、希望によって再建方法を選択していただいております。

日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の実施施設認定を取得しており、 保険診療で人口乳房による再建ができるようになっています。

(患者さん個人に最適な薬物療法)

乳がんに対する薬物療法には、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法(抗がん剤)、分子標的治療があります。 乳癌診療ガイドラインや臨床試験のデータに従って、患者さん個人に応じた個別化治療をおこなっています。 化学療法、分子標的治療はおもに通院治療センターでおこなっています。

通院治療センターは、化学療法の専門的知識や技術をもったスタッフが連携をとりながら運営しています。 治療内容や副作用対策の説明、服薬指導を行ない、外来で安心・安楽な治療が継続でき、 日常生活を治療前と変わりなく過ごせるよう支援しています。

【妊孕性温存】

乳癌治療では、抗癌剤治療や長期にわたるホルモン療法で妊孕性が低下します。 当院では、45歳以下の方全員に挙児希望の有無を確認し、希望があれば生殖補助医療が可能な近隣施設と連携します。

婦人科

当科悪性腫瘍では女性生殖器の摘出が治療上、必要不可欠である方も多くおられます。 正確な術前評価を元に、AYA世代の方を中心に適切な妊娠や女性ホルモン産生の可能性を残す治療法の選択について情報提供を行っております。 子宮頚癌における縮小手術として近年、広汎頸部切除術が知られる様になり、 適応となる方には治療可能な施設への紹介を行っております。

その他、すべてのがん治療を行う前に、妊娠を希望される方には治療に伴うデメリットをご理解いただいた上で、 受精卵・卵子・卵巣の一部の凍結に関して、また男性で妊孕性を保ちたい方は、精子の凍結保存も、 岡山大学を中心とした治療可能な施設へご紹介・依頼しています。 なお、受精卵・卵子・卵巣の一部や精子の凍結保存・凍結管理の費用などに関しましては、別途ご相談をお受けいたします。

血液内科

小児悪性腫瘍において最多の物は「白血病」です。そのため、AYA世代へ対応は、造血器腫瘍治療における重要課題として取り組んでいます。

1.治療選択

造血器腫瘍は、疾患毎に小児型治療方法と成人型治療方法に分かれています。 現在までの治験から、どちらの治療方法を選択するのが効果と副作用(治療関連死亡も含む) の観点から良いかを決めています。それにより当院で治療する場合と他院への紹介を行っています。

2.妊孕性保存

化学療法(抗がん剤治療)を開始する前には妊孕性保存の希望を伺い、現在の病気の状態を勘案して対応しています。 院内では受精卵・卵子・精子の凍結および保存は行っていません。実績のある施設を紹介することで対応しています。