最終更新日:2024/03/01

上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)

上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA:セガ)は、結節性硬化症の患者さんだけに特異的に発生する脳腫瘍です。 悪性の腫瘍ではありませんが、大きくなると脳の中の水(髄液)の流れを妨害し、水頭症を引き起こし、 生命にかかわる事態を引き起こすことがあります。早期発見と早期治療が大切です。 そのためには、定期的な受診と画像診断(CTまたはMRI撮影)が必要です。脳外科を受診ください。

上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)

病状に応じた治療方針

病状に応じた治療方針 図

治療法は、手術、薬物療法(mTOR阻害薬)のふたつがあります。 放射線治療が行われることもありますが、本疾患に対しては副作用の面から推奨されません。 2018年12月に、日本脳腫瘍学会から診療ガイドラインが公開されました。

また、2019年5月には、ガイドラインが製本化されました。 当診療チーム代表の市川は、SEGA診療ガイドライン作成ワーキンググループの委員長を務めました。

脳腫瘍診療ガイドライン

(1)手術

腫瘍が大きくなって、水頭症を起こしている場合、脳神経が圧迫されて神経症状が出現している場合は、 すみやかな減圧が必要ですので、手術により腫瘍を摘出します。 腫瘍がまだ大きくなく、水頭症や神経症状はないが、大きくなる傾向を示す場合は、手術もしくは薬物療法のいずれもが選択できます。

(2)薬物療法(mTOR阻害薬)

2015年に、結節性硬化症に伴うSEGAに対してmTOR阻害薬(エムトールそがいやく)のひとつ、 エベロリムスという内服薬が厚生労働省により認可されました(保険診療)。腫瘍がまだ大きくなく、 水頭症や神経症状はないが、大きくなる傾向を示す場合は、手術あるいは薬物療法のいずれかで治療しますが、 海外で行われた試験では、薬物療法により腫瘍を小さくする効果が認められています。 また、副次的な効果として、てんかんや皮膚症状に対する効果も示されています。

図は、腫瘍が縮小した患者さんの腫瘍体積のグラフです。このように、投与開始後早期から腫瘍の縮小がみられ、水頭症や神経症状の出現を予防することができます。

mTOR阻害薬の効果

mTOR阻害薬の効果

腎血管筋脂肪腫(腎AML)

腎血管筋脂肪腫(略して腎AMLとも呼ばれます)とは、結節性硬化症の患者さんの70-90%で腎臓に発生するとされる腫瘍で、 ほとんどが良性腫瘍ですが、ごく稀に悪性化した報告があります。通常3歳以降に認められ、加齢とともに頻度、個数は増加する傾向にあります。

腎血管筋脂肪腫はサイズが小さい場合は症状がなく、経過観察をすることが多いですが、大きくなると周囲の臓器を圧迫したり、 腫瘍の血管が破裂して出血を来すことがあります。特に出血はショックを起こし、重篤な状態になることがあり、その前に治療することが望まれます。

一般的に、治療の対象となるのは腫瘍に起因すると思われる症状があったり、経過観察で増大傾向がある場合、 腫瘍が4cm以上、または腫瘍に生じた動脈瘤の径が5mm以上であるなどの患者さんです。

治療法には、カテーテルという細い管を用いた治療と手術がありますが、一般的に患者さんの体の負担が少ないため、 第一選択はカテーテルを用いた治療が行われ、手術療法は、カテーテルを用いた治療で出血などの症状がどうしてもコントロールできない場合や、 悪性腫瘍が疑われる場合などに限られます。このカテーテルを用いた治療は腫瘍を小さくするため、 また、血管の破綻を防ぐために、腎動脈を塞栓することで行います。

また、近年成人の結節性硬化症に伴う腎AMLの治療薬として、mTOR阻害薬エベロリムスが2012年12月より保険治療で使用可能になりました。 腎AMLの診療ガイドラインは2017年に刊行されました。

(1)カテーテル治療

まず、左右どちらかの大腿動脈(時には上腕動脈)を穿刺して、大腿動脈から大動脈、腎動脈へとカテーテルを進めていきます。 穿刺部の局所麻酔で行います。順次撮影をし、腫瘍を栄養する腎動脈末梢を同定、さらに細いカテーテルを挿入して確認撮影をします。 病変の拡がりや位置、血流状態や動脈瘤の有無などを確認してから、動脈塞栓術を施行します。 球状塞栓物質(エンボスフィア)を用い、栄養血管を閉塞、血流を遮断し腫瘍を壊死させます。 腫瘍の大きさや位置、血管の走行により治療時間は異なりますが、おおよそ2-4時間程度で治療が終了します。

カテーテル治療

カテーテル治療 写真1
腫瘍の血菅を詰める前、腫瘍(緑の点線)が
造影剤により染まっている
カテーテル治療 写真2
カテーテルから小さい粒子を流し込み、腫瘍の
血管を詰めた後、腫瘍は造影剤で染まらなくなった

カテーテル治療の効果

カテーテル治療の効果 写真1
治療前
カテーテル治療の効果 写真2
治療後

多くの症例で腫瘍は縮小し、出血の予防をすることができます。また、治療後の腎機能の悪化を防ぐため、 選択的な動脈塞栓術を行うことで正常腎実質を温存できることもこの治療の利点です。 そのため、腎機能への影響は最低限かつ一過性に留まっています。

術後再発については、術時にはわからなかった微小な栄養血管が術後に太まり、腫瘍再増大をきたす可能性や、 新たな腫瘍が増大してくる可能性はあります。その場合でも、同様の治療を繰り返し行うことは可能です。

合併症

1) 血管造影に伴う合併症
  1. 穿刺部の血腫
  2. 手技中の動脈損傷(動脈解離や内膜損傷、閉塞など)
  3. ヨード造影剤によるアレルギー反応
  4. その他
2) 動脈塞栓術時の合併症
  1. 腹痛等塞栓部の痛み、発熱、嘔気、嘔吐
  2. 腎梗塞(発熱、痛み、腎機能低下)
  3. 腎膿瘍/感染
  4. 塞栓物質の肺内への迷入(無症状~肺塞栓症、肺梗塞による呼吸困難)
  5. その他(放射線皮膚炎など)

*2)-1は塞栓後症候群と呼ばれ、動脈塞栓術後に、程度の差はあるもののほぼ必発の副反応です。 その他の合併症は、頻度は稀で腫瘍の部位、大きさ、病状によって発生の頻度は異なります。 上記の合併症に対してはその都度ご説明し、迅速に対応いたします。

(2)薬物治療

mTOR阻害薬エベロリムスが2012年12月より保険治療で使用可能になりました。 この薬剤は2年間内服すると、約半数の患者さんで、腎AMLの体積が約半分になると言われています。 腎AMLは大きくなるほど、出血のリスクや自覚症状が出現する頻度が高くなると言われていますので、 薬物治療によってこれらのリスクや自覚症状が出現するのを抑える効果があると考えられます。 ただ、エベロリムスには多彩な副作用が出現することが多く(口内炎、皮膚障害、間質性肺炎、血液検査異常など)、 多方面の診療科と綿密な連携をとりながら、副作用に対応しています。

てんかん

結節性硬化症の患者さんの約8割がてんかんを合併します。特に2歳以下に発症することが多く、 てんかんは結節性硬化症の受診の契機として最も多い症状です。結節性硬化症の兆候が疑われたら、 その他の合併疾患の診断のために、検査が必要です。特に難治性てんかんは、 放置すると知的障害や精神神経症状などの脳の機能障害が重度になると言われていますので、 抗てんかん薬による早期治療開始がクオリティオブライフ(QOL)を維持するためにも重要となります。 薬物療法で効果が不十分な難治性の患者さんでは、手術による治療も考慮されます。 これらを適宜組み合わせて、必要に応じて先進医療を行う専門施設とも連携して、患者さんごとに最適の治療を行います。

(1)薬物療法

結節性硬化症のてんかんは発作のタイプが多彩ですが、タイプに合わせて、 薬物療法として種々の抗てんかん薬や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法を行います。 また、2016年3月に承認となったビガバトリンは、発作のタイプを問わず有効性が知られている治療です。 これらの治療に加え、上述の上衣下巨細胞性星細胞腫 (SEGA:セガ)や腎血管筋脂肪腫 (腎AML)の治療として使用されていたmTOR阻害薬(エムトールそがいやく)の一つであるエベロリムスが、2019年8月に、適応拡大され、難治性てんかんに対しても使用できるようになりました。適応拡大の根拠となった臨床研究では、てんかん発作の頻度を半分以上にできた患者さんの割合が、プラセボ (偽薬) 群で15.1%だったのに対し、mTOR阻害薬の血中濃度低値群で28.2%、高値群で40.0%と有意な効果を示しました。この適応拡大により、抗てんかん薬を使用していても発作のコントロールが難しい患者さんに対して、mTOR阻害薬が新たな治療選択肢となっています。

(2)外科的治療

種々の薬物療法を行ったにもかかわらず、てんかんのコントロールが困難な難治性の患者さんには、 てんかん焦点(引き金となる電気活動の異常が発生する部位)を特定して切除する外科的治療もあります。