最終更新日:2022/03/15

脳腫瘍の最新の治療法:交流電場療法

脳腫瘍と標準的治療

頭の中にできる腫瘍のことを、脳腫瘍と総称します。代表的な脳腫瘍には、グリオーマ、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫などがあり、手術で摘出すれば治るものもあれば、手術で摘出した後に薬物療法(抗がん剤)や放射線治療を追加して治すものもあります。
グリオーマの中には、悪性度の高いものや低いものがありますが、悪性度の高いグリオーマの治療では、 手術と、薬物療法(抗がん剤)、放射線治療の3つを組み合わせて行います。
当院では、最新の治療機器と薬剤を用いた治療を受けることができます。
まず手術では、脳神経の機能を損なうことなく最大限に腫瘍を摘出するために、 ナビゲーションや神経モニタリングなど様々な補助装置を用います。 つぎに薬物療法では、作用の機序が異なる薬剤を複数組み合わせることで治療効果を高めます。 そして、放射線治療では、周辺の脳神経に対する影響を最小限にして腫瘍に対する治療効果を高める照射方法(IMRT)を用いています。

手術用顕微鏡のもとで行う脳腫瘍の摘出手術
手術用顕微鏡のもとで行う脳腫瘍の摘出手術

交流電場療法:脳腫瘍の第4の治療法

最近、グリオーマの治療に交流電場腫瘍治療システムという革新的な治療法が加わりました。

患者さんの頭の皮膚に電極を貼り、常時携帯できる治療装置に接続して、脳腫瘍のまわりに特殊な電場を発生させます。
すると電場の影響で、腫瘍細胞は分裂するたびに壊れていきます。このように薬物療法や放射線治療とは全く異なるメカニズムで作用しますが、 電場は正常な脳神経には影響しませんので、副作用はほとんどありません。 海外の臨床試験では、従来の標準的治療法(薬物療法と放射線治療)に加えて行うことで治療成績が向上すると報告されています。 適応となるのは、グリオーマのなかでも膠芽腫と呼ばれる腫瘍で、厚生労働省より昨年の12月に保険診療が承認されました。
ただし、特殊な治療機器であるため、脳腫瘍治療の経験の多い施設で、使用方法の講習を受けた専門医による治療として認められています。
当院では、令和元年の7月から使用できるようになりました。詳細については、担当医にお問い合わせください。

頭に貼る電極シール
交流電場療法の作用メカニズム

この治療法のメリット

1.外来通院で可能

この治療法の特徴は外来通院で行える点で、普通の日常生活を送りながら24時間治療を持続的に行うことができます。
長期間にわたる入院の必要はありません。
1カ月に一度の外来通院で治療を続けることが可能です。同時に行うお薬の内服も自宅でできます。

外来通院で可能

2.日常生活の中で治療を継続

1日のうち装着時間が長いほど治療効果が高まります。
日中も、仕事や趣味などで外出のときには、専用のショルダーバッグで電源装置を持ち運ぶことができますので、治療をしながら、安心して外出できます。
頭部の電極シールの上に、帽子やウィッグ(かつら)をかぶることも可能です。

日常生活の中で治療を継続 写真1
日常生活の中で治療を継続 写真2
画像:ノボキュア株式会社提供

3.保健診療で行える

本治療システムは、初発の膠芽腫患者さんへの使用について、厚生労働省から保険診療として認められています。
治療期間中の毎月の医療費については、自己負担限度額を超えた場合には、高額療養費制度により還付が受けられます。

4.副作用が少ない

この治療法では、身体的負担の大きい副作用はほとんどありません。電極シールによる軽い皮膚炎がおこることがあります。
脳の中に電場を発生させますが、神経細胞に電気的な影響を与えることはありませんので、けいれんを誘発することはありません。
同時に併用するお薬(テモゾロミド)によって食欲低下がおこることはありますが軽度です。

5.ほかの治療と組み合わせて行える

膠芽腫に対する治療法には、手術、放射線治療、化学療法の3つがあります。
本治療システムによる治療中はテモゾロミドという薬剤による化学療法を併用して行います。 効果が不十分である場合(再発)には、それ以外の薬剤と併用することも可能です。

お問い合わせ

脳神経外科 部長 市川 智継

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